「ねじの豆知識」 “超強度”14.9六角穴付ボルト Vol.4

ファスナーには奥深い世界が広がっています。私たちが取り扱っている様々な「ねじ」をご紹介しながらその世界を少し味わっていただけたら嬉しいです。

第四回は「“超強度”14.9六角穴付ボルト」の耐候性に焦点を合わせていきたいと思います。

Vol.1 14.9超強度六角穴付ボルトとは?
Vol.2 耐遅れ破壊特性
Vol.3 疲労破壊耐性
Vol.4 耐候性

これまで「14.9超強度六角穴付ボルト」は強度や疲労耐性について優れた性能を持っていることを確認してきました。

今回は「耐候性」を左右する表面処理について考えます。

屋内外を問わずどんな所にも使われるゆえに私たちの身近にいつも存在している「ねじ」。だからこそ過酷な環境に耐えることも期待されます。

腐食対策

ご存知のように金属製品は使用環境や期間によって、“さび”などの腐食が生じます。錆は外観や表面価値を損ない大きなダメージを与えることもあります。私たちの安全に直結しますから、ファスナーの腐食が原因で建物の構造に影響する重大な事故災害につながることや製品が故障するようなことは避けなければいけません。

「防蝕」対策に一般に行われるのが金属の表面をコートする塗装やめっき(鍍金)です。

耐食性・耐熱性・耐摩耗性が上がり(防錆めっき)、光沢が出るために意匠性も向上します(装飾めっき)。めっきは永くその効果を保ち、樹脂製品に施すことで伝導性を持たせるといった機能性を付与することもできます(機能めっき)。

ボルト・ナット等のファスナーにおいてもその使用目的に合わせた様々なめっきが施されています。

「めっき」と「水素脆化」

良いことずくめのように見えるめっきですが、実は水素脆化が問題になる高強度の炭素鋼製品には施すことができません。

めっきは化学反応によってめっき液中にある金属イオンを素材の表面に移動させ、金属皮膜を形成させる技法です。めっきの工程内で使用する「酸」や「溶液」が「鋼」と化学反応をして水素が発生し、その一部が鋼の中へ侵入します。
内部に侵入してしまった水素は第二回で考えた高強度の鋼製品における「遅れ破壊(水素脆化)」を引き起こす原因となります。

めっきの前処理

材料表面に付着した油汚れを取り除く「溶剤洗浄(脱脂)」、酸化被膜やスケール、不働態膜を取り除くために「酸洗」がなされます。そして酸洗後の移動においてできてしまった酸化被膜を除去するためにめっき直前にもう一度酸溶液(めっき処理品の材質によって異なるものの、塩酸や硫酸が一般的)を用いて素材表面の「活性化」を施します。

めっきの工程

ねじに施されるめっき処理は 電気めっき や無電解めっき 溶融めっき 等が代表的です。

電気めっきはめっきしたい金属イオンを含む溶液(電解液)中で、めっき処理したい金属をマイナス極側、めっきとなる金属をプラス極側として電流を流し(電気分解)、対象となる金属の表面にめっき金属の膜を析出させます。
アルマイト(アルミニュウム専用)は電極のプラスマイナスが逆になります。

無電解めっきは金属に通電することなく、めっき液に浸すことでめっき処理を施す方法です。置換型(置換めっき)と還元型(還元めっき)に分類されます。
金属だけではなく、プラスチックやセラミックスなど不導体材料にも施せます。

溶融めっきは、溶融金属中に処理物を浸して、表面に溶融金属およびその合金層を形成させます。ねじに施されるめっきの代表格の溶融亜鉛めっきは、高い鋼の防錆(せい)性を示します。他の表面処理に比べて防錆(せい)期間が長く、経済的で小物部品から大型部品まで広範囲の分野で利用されています。

デルタプロテクト

14.9超強度六角穴付ボルトは極端な気象条件で使用する際の表面処理として「デルタプロテクト」を施工します。

「デルタプロテクト」は非電解薄膜亜鉛フレークをコーティングしたものです。
前処理工程でも通常の酸洗いは行わず、ショットブラスト処理をします。またコーティング処理中でも酸洗いや電解工程がないので反応水素が発生せず、水素が生成されないため、水素誘起の応力腐食割れ、水素脆性破壊の危険性がありません。

デルタプロテクトのベースコートは多数の小さな亜鉛フレークから成る「塗料」で構成されており、卑金属(空気中で容易に酸化される金属)である亜鉛の犠牲作用(鉄よりも先に酸化されること)により高い陰極犠牲防食効果を発揮します。さらにトップコートはベースコートの特性を補い、全体の耐薬品性や物理的特性を高めます。

デルタプロテクトは塗料自体の粘度が低く高い浸透性をもつため、六角穴やネジ山の細部にまで浸透してコーティングします(塗膜10~15ミクロン)。また液溜まりを起こしにくいため六角穴で用いても問題ありません。

ベースコート(KL100)を2回、トップコート(VH300) を1回処理しています。それぞれベースコートで180~220℃、トップコートで180~200℃と乾燥温度が低いため、再加熱を嫌う熱処理品やハイテンション鋼に対して素材の特性変化を起こしにくく、安心して14.9超強度六角穴付ボルトへコートできます。

そしてすべての塗料にはRoHS6物質(鉛・水銀・カドミウム・クロム・PBB・PBDE)は含まれておりませんので、環境に配慮した表面処理と言えます。長期間にわたりファスナーを保護するデルタプロテクトを施すことで長寿命に寄与し、メンテナンス性の向上に貢献しています。

4回にわたり14.9超強度六角穴付ボルトについて考察してきました。昨今の小型化・軽量化の要求に応える高強度を達成しその高性能を安心・安全に使用して頂くために、「水素脆化」による「遅れ破壊」や「疲労破壊」という問題に対して優れた技術によって対策した高性能な製品であることがお分かりいただけたと思います。そして「14.9超強度六角穴付ボルト」の魅力をお伝えできたなら嬉しいです。

ねじの大原則

どこにでもあるねじ。だからこそ“ねじ”には守らなければならない大原則があります。

ファスナーは、強度や耐久性において常に組み立てられた部品と同等か、それ以上でなければならない。
 
ボルト接合部は決して弱点になってはならない。

ねじは小さなものから大きなものまで動かす“原動力”です。これからも弊社で扱っているねじをご紹介し、私たちが見ている「ねじの世界」を皆さんもご覧いただければと思います。

ねじには“ひねり”があるから面白い!


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